kinichi kishi もったいないは 形は変える

Kanayama machi 金山町 岸家具 岸欽一

岸家具 岸欽一 作業風景

岸家具 岸欽一 作業風景

 仏壇の前に座り、一本の線香をじっと見つめ、半分に折る。そして、火を点け手を合わせる。岸欣一の朝はそうして始まる。
「線香を半分に折るのを毎日やって感覚を養ってるんだ。目分量で半分にしてると、色んな材料の長さが大体分かるようになるんだ。」
 楽しそうに話す彼は、金山町の小さな家具屋の店主。母と姉が営んでいた家具屋は、家具を買い付けて売るという小売業の店だった。高等専門学校を卒業してから、船に乗り浚渫作業(※1)の仕事をしていた欣一は、姉の結婚を機に家具屋を継いだ。しばらくは小売りを専門にしていたが、金山川にきごころ橋(※2)が作られたときに町役場から相談があった。
「役場から金山杉の材料で額縁を作ってもらえないかって頼まれたことがあってな。あの頃は、素人だったから難しかったけど、なんとか形になったのよ。額縁作れたら色んなモノが作れるようになって、いまではベッドから扉まで何でも作ってる。うちの祖父さんが、指物師(※3)だったんだけど、親戚からは"お前は祖父さんの血が流れてるな"って言われるよ。」
 店に入ると、そこは家具屋というよりも工房のような雰囲気だ。小売りをしていた時の名残はもう見当たらない。店頭には、家具や木製小物が少しだけ並び、奥を覗くと制作途中の商品が所狭しと並んでいる。打合せ用のテーブルに腰をかけ、小口を繋ぎ合わせた不思議な模様の木製鞄を前に楽しそうに話す。
「材料捨てるのもったいねぇべ。だから、なるべく捨てずにとっておくのよ。この小口の鞄も、その集大成だ。余った金山杉の材料を階段の下に積んで置いていて、ある時ふと気づいたわけ。積み上げられた材料の小口を眺めてたら、模様に見えたのよ。そんで、くっつけてみたらどうかと思ってやってみたらこれが面白くてね。一個として同じ模様にならないし、組み合わせは何通りもあるから様々な柄が作れる。」
 捨てるのがもったいないという理由から生まれた小口のパズルのような柄。
物が大量に溢れ捨てられていく時代の中、どんな材料をも大切に最後まで扱う。小さな家具屋は、捨てられていたかもしれない材料に真摯に向き合い、考え、誰かに利用してもらう役割を与えた。
「色んな人が相談に来てくれるから、話しながら色々と思いつくのよ。あの材料使えそうだなとか、試作頼まれたときに別の素材の組み合わせを考えてみたりとか。大抵アイディア思いつくのは、人との会話の中からだから、お客さんと話すことをすごく大事にしてるんだ。納品で店にいなくて話が出来なかったときはもったいないことしたなぁと思うよ。」
 彼の話の端々に出て来る『もったいない』という言葉。その気持ちには、木材や人に対する感謝と、何事も無駄にしないという姿勢が表れている。
 暮らしの中のもったいない、ありませんか。

(※1)【浚渫作業】港湾・河川・運河などの底面を浚(さら)って土砂などを取り去る土木工事のこと。
(※2)【きごころ橋】平成十六年に新設された、川をまたぐ歩道橋。金山杉と金山職人の技が活かされている。
(※3)【指物師】たんす、長持、箱火鉢など板を差合せてつくる木工品の専門職人のこと。

もがみのおぼん

〈制作者〉おぼん:岸欣一(岸家具/きごころ工房)
〈素材〉おぼん:金山杉